俺様社長と極甘オフィス
 こんな駄々っ子みたいなことを言って困らせて。今まで培っていたものがガラガラと音を立てて崩れていく。

 私の言葉に社長は言葉を詰まらせた。そして、やるせなさそうな表情を浮かべ、おもむろに口を開く。

「ごめん。今まで気軽に触りすぎてた。これからは、そんなことしないから」

 痛いくらいの沈黙が部屋に降りる。謝ってほしかったわけじゃない。そんな顔をさせたかったわけじゃない。

 こんなふうに、こじれたりしないように、必要以上のものを求めないようにとここまで必死でやってきたのに。なにもかも、自分で壊してしまった。

「……こちらこそ、すみませんでした。このことは忘れてください、失礼します」

 まるで機械のように言葉を紡ぐと、私はふらふらと後ずさり、さっさと部屋を出ることにした。

「おい、藤野」

 呼び止められた声を無視する。頭の中も心の中もぐちゃぐちゃだった。慌ててエレベーターのところまで駆けると、幸運なことにエレベーターはこの階で待機していてくれた。

 急いで開くと、まるでシェルターのように、開ききる前に滑り込んで中に入りこんで、扉を閉める。

 どうしよう。あんな態度をとってしまって、どう思われただろうか。明日、どんな顔で出社すればいいのか。どうしよう。無意識にぎゅっと胸元を握りしめる。心臓が痛いくらい強く打ち付けていた。
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