俺様社長と極甘オフィス
「そんな彼を見て、なんとか力になりたいと思って、できる限りのサポートをして。それでいつしか好きになって、結婚もして、京一くんもすごくいい子だったし、息子も授かって、幸せだった。
でも駄目ね。亡くなった奥様には勝てないし、正一さんが私のことを必要としてくれているのは、秘書としてなのか、それと関係なく私自身なのか、分からなくなったの。
分かっていたことだけれど、彼は忙しかったし、話すことはどうしても仕事のこと中心で。結局、些細な溝が上手く埋められなくて結婚生活を終わらせることになった」

 美代子さんの話を聞きながら、なんだか勝手に心臓が煩くなる。『必要としてくれているのは、秘書としてなのか、それと関係なく私自身なのか、分からなくなった』という言葉が切り取られて耳に残る。

 それは今の私も一緒だった。いや、同じじゃない。社長が私を必要としてくれているのは、確認するまでもなく秘書としてだ。けれども、その気持ちが今の自分に同調して痛くなる。

 しかし、そんな私の耳に次に届いた言葉は、でもね、という明るい声だった。改めて美代子さんを見れば、その顔は晴れ晴れとしている。

「仕事を通して、久しぶりに正一さんと再会して、あの頃は話せなかったことをたくさん話せたの。当時の気持ち、別れてから、違う人と結婚したけれど、その人とも駄目になったこと、今の自分のこと。
それで、やっぱり私は彼が必要だし、彼のことが好きだな、って思えて。たくさん遠回りしたけれど、今幸せだから」

 笑い皺ができても、美代子さんはやっぱり綺麗だ。だから私も笑顔になれた。
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