俺様社長と極甘オフィス
『そういう理由なら辞退します』

 きっぱりと言い放って彼を見ると、信じられない、という顔をしている。そんな彼の瞳から視線を逸らさずに私は告げた。

『ヘリコプターはパフォーマンスでも見世物でもありません。どんな理由であれ、会社にとって大事な方々を乗せるなら、操縦技術や経験の深さも考慮するべきだと思います』

 やってしまった。それを私が言うセリフではないのは重々に承知しているが、どうしても心の中で留めておくことができなかった。

 若くて女性と言うだけで、今までも散々色眼鏡で見られてきた。もちろん悪いことばかりでもない。それでも私は、なにか特別なことをしているわけでもない。同じように勉強して、試験に合格して、ヘリに乗っているだけなのに。

 頭を下げてから、彼に背中を向けて歩き出す。どうしてこれを自分の武器、と捉えて素直にお礼ですませておかないのか。

 昔から私はこうだった。どうも私には女性らしさというものがあまりなく、自分を女だと意識させられるのも苦手だ。

 そんな感情の反発心でもあったんだと思う。勧めてくれた両親になんて報告しようか、と思い浮かべているときに私の左腕が後ろから取られた。

『そういう理由だけじゃないなら辞退しない?』

 振り向くと、その顔に先ほどまでの笑顔はなく、真剣な眼差しでこちらを見ている彼がいた。その表情に私は思わず息を呑む。

『言い方が悪かったね、ごめん。でも操縦技術なんて大前提だよ。そのうえで藤野さんがいいと思ったのは、ヘリのことが好きだって伝わってきたからなんだ』

 そこで彼は私の腕を掴んでいた手をゆっくりと離した。なので私も、彼におとなしく向き直ることにする。
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