俺様社長と極甘オフィス
「お疲れ様です、藤野です」

『藤野、今、どこだ!?』

 いつものお決まり文句を告げると、電話口から聞こえてきたのは社長の緊迫した声だった。

「どうされたんです、大丈夫ですか?」

『それはこっちの台詞だ! 藤野こそ、大丈夫なのか?』

「なにがです?」

 相変わらず調子を崩さない社長に私は素で訊き返す。すると社長は珍しく声を荒げたまま続けた。

『留守電聞いたけど、あんなところで切れてたら、なにかあったんじゃないかって心配になるだろ!』

「っ、申し訳ありません」

 反論する余地などまったくない。私は電話なのにも関わらず、頭を深々と下げた。そこで、社長が息を吐いたのが伝わってくる。

『いいよ。今、どこ? 家? 会社?』

「会社です。社長、今更ながらお電話大丈夫ですか?」

『ああ、もうこっちの用事は済んだ』

 意識しないでいようと思ったのに、気持ちが少しだけざわつく。それを振り払い、私はあくまでも冷静に感情を声に乗せずに告げた。

「実は、五十二階のパスワードが判明しました」
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