俺様社長と極甘オフィス
『藤野さんが言うように、こちらとしては大事なお客さんたちを乗せるわけだから。でもそういう人たちってヘリに慣れていない人たちがほとんどだと思うんだ。
きっと緊張もするだろうしテンションが上がったりすると思う。そんなとき、どんなに操縦が上手くても仏頂面で対応されると困るんだ。
その点、藤野さんはさっきのフライトのときも、嬉しそうにこちらの質問に答えてくれたり、話してくれたから』

 真正面から褒められた照れか、それとも一方的に言い放った自分の短絡的な行動に後悔してか、私の全身に羞恥心が駆け巡った。さっきまでの勢いなど一瞬で消え去る。

『それは、すみません』

 謝るべきなのか、御礼を言うべきなのかも判断がつかない。私は消え入りそうな声で俯きがちに告げた。とにかくこの場をさっさと後にしてしまいたい。しかし、そんな私に彼は予想外のことを告げてきた。

『謝るのは俺の方だよ。時間もとらせちゃったし、お詫びになにかご馳走したいんだけれど、駄目かな?』

『いえ、そんな。謝るのは私の方です。そんなお気遣いなく』

 すると彼は少しだけ考える仕草を見せた。

『なら、お詫びとか関係なく、純粋に誘うことにする。藤野さんの話をもっと聞きたくなったんだ。話を聞かせてもらって時間をとらせる代わりに、食事をご馳走する。これでどう?』

 なんだかビジネスの取引を持ち掛けられたようだ。そのおかげか、私はついつい笑ってしまった。
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