恋愛上手な   彼の誤算
「寒くない?」
「大丈夫です。人が居ないので好都合です」

食堂を出て連絡通路を渡るとそこは隣接しているビルの最上階になる。そこそこ有名な商社であるうちの本社がこの二棟の建物だった。
ガラス戸を開ければここは屋上庭園となっていて暖かい季節にはよく昼食を取る光景も見られる。しかしこの季節で十二階ともなれば風はそれなりに強く、人影は見当たらなかった。

「お話ってなんでしょう」
「今週末空いてる?」
「は?」
「土曜でも日曜日でも」
「……どちらでも…っきゃ…!」

「空いてますけど」と続ける前に突風に煽られて髪を押さえ目を閉じた。ふ、と影を感じて風の当たりがなくなったかと思うとすぐ横に相沢さんが立っていた。

「大丈夫?」
「大丈夫です……あの、近いのですが」
「ここがいいって言うから仕方ない。せめて風避けにならせてよ」

一瞬で風上に移動して風避けになってくれるなんてどこまでも女慣れをしている人だ。

「土曜日にしようか」
「え…?」
「どっちも空いてるんだろう?」
「空いてますが……何を?」
「週末の予定を聞くなんて一つしかない」

相沢さんはふふ、と面白そうに笑ってまた破壊力のある顔で優しく言った。

「デートしようか」

その何とも言いがたいイケメンの攻撃力の高さと物理的な距離の近さに一瞬頭がフリーズした。







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