恋愛上手な 彼の誤算
「西本さん」
「…あ、え、相沢さんっ?」
「これ、お願いしたいんだけど」
顔を上げると領収書をひらひらと摘まみながらにっこり笑うその人に一瞬面食らい、紙を受け取るとつい眉を潜めてしまった。
「あの、普通に提出してくださいって何度言えば…」
こんな言い方したいわけじゃないのに、と思うけど何をどう話せばいいのか分からない。
日常会話すらスムーズにできない自分に歯痒くなっていると、さっきまで彼氏の話題で盛り上がっていた二人が「相沢さんだー」と可愛らしい声音で会話に割り入り俊敏に彼を取り囲んだ。
「相沢さんお久しぶりじゃないですかぁ」
「一週間北海道だったからさ」
「え~いいなぁ私も北海道行きたいー」
「いやいや仕事だからね?」
彼女たちの軽口に相手をしながら笑う彼には遠くのデスクに座っている女性社員もちらちらと視線を送っている。
相沢由貴、三十二歳。人目を惹き付ける二重の目に嫌味なく上がった口角のすぐ下にあるホクロからはフェロモンが漂う爽やかで甘いルックス。その身長は百八十センチを越え、身に纏うスーツは詳しくない自分にもセンスが良いと分かる上質な生地にダークグレーのスリーピースを完璧に着こなしている。
おまけに花形部署ともいわれる海外事業部帰りとくれば当然社内で知らない人は居ないほどの有名人だ。
恋愛経験のない私からすればキラキラに眩しすぎてその明らかにチャラい空気が、言い換えれば恋愛経験豊富そうな雰囲気にどうしても苦手意識が先行してしまう。
海外事業部から三ヶ月前に帰ってくるなり営業一課でもその手腕を発揮しているらしく、出張が多いせいで経理を兼ねる総務課に彼が顔を出す頻度が多い。そのためいちいち職場がざわつくのもまた苦手な理由の一つだった。
「…あ、え、相沢さんっ?」
「これ、お願いしたいんだけど」
顔を上げると領収書をひらひらと摘まみながらにっこり笑うその人に一瞬面食らい、紙を受け取るとつい眉を潜めてしまった。
「あの、普通に提出してくださいって何度言えば…」
こんな言い方したいわけじゃないのに、と思うけど何をどう話せばいいのか分からない。
日常会話すらスムーズにできない自分に歯痒くなっていると、さっきまで彼氏の話題で盛り上がっていた二人が「相沢さんだー」と可愛らしい声音で会話に割り入り俊敏に彼を取り囲んだ。
「相沢さんお久しぶりじゃないですかぁ」
「一週間北海道だったからさ」
「え~いいなぁ私も北海道行きたいー」
「いやいや仕事だからね?」
彼女たちの軽口に相手をしながら笑う彼には遠くのデスクに座っている女性社員もちらちらと視線を送っている。
相沢由貴、三十二歳。人目を惹き付ける二重の目に嫌味なく上がった口角のすぐ下にあるホクロからはフェロモンが漂う爽やかで甘いルックス。その身長は百八十センチを越え、身に纏うスーツは詳しくない自分にもセンスが良いと分かる上質な生地にダークグレーのスリーピースを完璧に着こなしている。
おまけに花形部署ともいわれる海外事業部帰りとくれば当然社内で知らない人は居ないほどの有名人だ。
恋愛経験のない私からすればキラキラに眩しすぎてその明らかにチャラい空気が、言い換えれば恋愛経験豊富そうな雰囲気にどうしても苦手意識が先行してしまう。
海外事業部から三ヶ月前に帰ってくるなり営業一課でもその手腕を発揮しているらしく、出張が多いせいで経理を兼ねる総務課に彼が顔を出す頻度が多い。そのためいちいち職場がざわつくのもまた苦手な理由の一つだった。