プラス1℃の恋人
本編

【1】目覚めたら、男子更衣室

 指先が熱を帯びている。

 腰から下が重だるく、ひざは痛み、ふくらはぎが冷えて硬直し、足の裏は手のひらと同じようにジンジンと火照っている。

 体の末端が、こもった熱の出口を探してもがいているのがわかる。

 喉はカラカラに乾き、甘く、苦く、口のなかにねっとりとした唾液が絡みついている。

 水が欲しい。

 潤いを求めてあたりに手を這わせるが、思うように体が動かない。

 時間の感覚も、皮膚の感覚も、平衡感覚も、すべてが狂っていた。

 須田青羽《すだあおば》は重い腕を上げ、自分の額に手を置いた。
 こめかみがズキズキと痛む。

 手のひらの温度のほうが額よりも高く、体が熱を持っているかどうかもわからない。
 とにかく全身が鉛のように重くてだるい。

 ああ、またこれだ。
 この感覚を、青羽はよく知っていた。とくに夏場は同じような症状が続いている。

 いつものことだからと「慣れ」で済ませられるほど甘くはない。
 生活にも仕事にも支障をきたす、やっかいな体質だ。
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