プラス1℃の恋人
「ちょっと待て。それじゃ私、千坂主任を押し倒したってこと!?」

 女子更衣室のスツールに座りながら、青羽は悲鳴をあげた。

 そこから先の記憶がないので、その後どういう展開になり、男子更衣室で寝る羽目になったかということに関しては、まったく見当がつかない。

 あられもない姿で、誰もいないオフィスの床でもつれあうふたり。
 気が付いたら自分は下着姿で更衣室のベンチに横たわっており、千坂はシャワーを浴びていた。

 そこから導き出される可能性はただひとつ。

 男女の色っぽい出来事にはしばらく縁がなかったので、コトのあとの体がどんなものなのかすっかり忘れてしまっている。
 けれどよく見たら、鏡に映った自分の首筋に、キスマークらしきものがついているではないか。

「うそうそうそうそーーーー!!」

 青羽の勤める会社では、社内恋愛を禁止されているわけではなかった。
 けれど、相手は完璧に恋愛対象外だったクマみたいな上司。

 困惑しきった千坂の顔が、しっかり脳裏に焼き付いている。

 ということは、やはり一線を越えてしまったのか。
 しかも、誰もいなかったとはいえ、仕事場の床で――

「ありえなさすぎる!!」

 スツールの上で、青羽は頭を抱えた。
 
 明日から、どうやって生きていこう。
 千坂の顔を、まともに見る自信がない。
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