プラス1℃の恋人
「もしかして……」

 やっぱり夕べ、自分は千坂と関係したのかもしれない。
 出社したときの「ほかに体に異常はないか」というセリフは、きっとそのことを指していたのだ。

「はぁ……マジか……」

 けれど不思議と嫌な感じはなかった。
 むしろ千坂の裸体を想像して、「キャー」と悶えてしまう自分がいる。

 記憶に残っている千坂の肌は、ひんやりとして心地よかった。
 そして、想像していた以上に硬くて逞しかった。

 どんなふうに千坂が体に触れ、愛の言葉をささやいたのか、思い出せないのがもどかしい。

 夕べのことを直接確かめたい気もするが、恥ずかしさのほうが勝って、仕事以外の話はできそうにない。

「もぉ……」

 ふたたび顔が火照り、青羽はその場でへたりこんだ。
 ドキドキする気持ちを落ち着けるように、スチール棚に顔を付ける。

 ――もしかして、好きになっちゃった?

 たしか千坂は、三十五歳だったはずだ。
 十歳の年の差はあるけれど、そこはたいした問題じゃない。

 奥さんの話は聞いたことがないし、左手の薬指に指輪もない。独身でいいんだよね?

 ああ、でも彼女くらいはいるだろうか。
 仕事はできるし、気さくでおもしろいもんな――
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