プラス1℃の恋人
【5】恋の病、発症
「それでどうなったの!?」
桃子と紫音が同時に身を乗り出した。
青羽は「きゃっ」と言って両手を頬にあてる。
夏のボーナスが支給された金曜日。
会社のそばにある隠れ家的な居酒屋で、事務の桃子、データ管理課の藤谷紫音らとともに、青羽は女子会に繰り出していた。
ここは、クラフトビール・マーケティング・ジャパンが地ビールを卸している店だ。
客層と売れ行きを見るために、こうしてちょくちょく足を運んでいる。
掘りごたつ式のテーブルで、3人は顔をくっつけるようにしておしゃべりをする。
もちろん話題は、青羽と千坂のことだ。
最初のビールが運ばれてきたので、話をいったん中断し、乾杯をして喉を潤すことにした。
オーダーしたのは、岡山県のドイツビール。
紫音は色が濃くてコクのあるシュヴァルツ、桃子はピーチ味のピルスナー(桃子だけに)、そして青羽は新作のヴァイツェンだ。
マーケティング部主任の千坂が、部下の須田青羽を抱きかかえてオフィスからお持ち帰りしたという大事件。
事務の桃子はサマータイム勤務のため退出時間が早く、決定的シーンを見逃していた。
仕事場は離れている紫音も、また然り。
ようやく週末となり、待ってましたとばかりにふたりに捕獲され、この居酒屋に連れてこられたというわけだ。
青羽はジョッキに注がれたビールをごくりと飲み、ふたりの顔を交互に見る。
にやけそうになる頬を必死で引き締め、もったいつけるようにコホンと咳払いをしてから口を開いた。
「そのあとね、ふたりでご飯を食べに行ったの。タクシーのなかでも、ずっとうちわで煽いでいてくれて。『大丈夫か?』って、何度も額を触られて……」
「千坂主任ってそういうキャラだったんだ!」
「やだもう、寿退社も近い!?」
甘い話にふたりのテンションも上がる。
「寿退社なんて、ふたりとも、気が早いよ~」
と言いつつ、青羽自身も、久々に訪れたロマンティックな出来事にすっかり舞い上がっていた。
桃子と紫音が同時に身を乗り出した。
青羽は「きゃっ」と言って両手を頬にあてる。
夏のボーナスが支給された金曜日。
会社のそばにある隠れ家的な居酒屋で、事務の桃子、データ管理課の藤谷紫音らとともに、青羽は女子会に繰り出していた。
ここは、クラフトビール・マーケティング・ジャパンが地ビールを卸している店だ。
客層と売れ行きを見るために、こうしてちょくちょく足を運んでいる。
掘りごたつ式のテーブルで、3人は顔をくっつけるようにしておしゃべりをする。
もちろん話題は、青羽と千坂のことだ。
最初のビールが運ばれてきたので、話をいったん中断し、乾杯をして喉を潤すことにした。
オーダーしたのは、岡山県のドイツビール。
紫音は色が濃くてコクのあるシュヴァルツ、桃子はピーチ味のピルスナー(桃子だけに)、そして青羽は新作のヴァイツェンだ。
マーケティング部主任の千坂が、部下の須田青羽を抱きかかえてオフィスからお持ち帰りしたという大事件。
事務の桃子はサマータイム勤務のため退出時間が早く、決定的シーンを見逃していた。
仕事場は離れている紫音も、また然り。
ようやく週末となり、待ってましたとばかりにふたりに捕獲され、この居酒屋に連れてこられたというわけだ。
青羽はジョッキに注がれたビールをごくりと飲み、ふたりの顔を交互に見る。
にやけそうになる頬を必死で引き締め、もったいつけるようにコホンと咳払いをしてから口を開いた。
「そのあとね、ふたりでご飯を食べに行ったの。タクシーのなかでも、ずっとうちわで煽いでいてくれて。『大丈夫か?』って、何度も額を触られて……」
「千坂主任ってそういうキャラだったんだ!」
「やだもう、寿退社も近い!?」
甘い話にふたりのテンションも上がる。
「寿退社なんて、ふたりとも、気が早いよ~」
と言いつつ、青羽自身も、久々に訪れたロマンティックな出来事にすっかり舞い上がっていた。