プラス1℃の恋人
男はふたたび口を開いた。
「これはエディブルフラワーといって、食べることのできる花なんです」
「へえ~」
スプーンで掬い取ったゼリーの上にバラの花をのせ、思い切って口に入れてみる。
その瞬間、口のなかがバラの香りで満たされた。
「おいしい!」
はじめて食べるバラの花の食感は、まるで想像とは違っていた。
やわらかくて適度な歯ごたえがあり、上品な葉物野菜を食べているみたいだ。
男は、そんな青羽を見て目を細める。
「千坂さんが、女性を連れてくるなんて意外でした」
「え?」
千坂主任の知り合いなのだろうか。
だとすれば、どこかで顔を見たことがあるというのも、あながち間違いではなさそうだ。
取引先の人間とも、ときどき顔を合わせることがある。
でも、こんなに端整な顔をした相手なら、絶対に忘れないと思うのだが……
すると席に戻ってきた千坂が、「仁科さん、こちらにいらしたのですか」と、男に向かって深々と頭を下げた。
やはり千坂の知り合いだったらしい。
千坂は別の席を用意してもらうよう、ホールスタッフを呼ぼうとしたが、仁科はそれを制し、千坂と青羽のあいだにあった空席に座った。
「今日は突然お呼びだてして、申し訳ありません」
頭を下げられたほうの男は、「いえいえ、とんでもない」と、上品だが親しみやすい笑顔で答えた。
「先日提案した件ですが、考えていただけましたか?」
「そうですね……まだ検討中です」
ビジネスの話?
それに、千坂が彼を呼んだって。
どういう状況なのかわからなかったが、なんだか自分がひどく場違いな気がした。
「これはエディブルフラワーといって、食べることのできる花なんです」
「へえ~」
スプーンで掬い取ったゼリーの上にバラの花をのせ、思い切って口に入れてみる。
その瞬間、口のなかがバラの香りで満たされた。
「おいしい!」
はじめて食べるバラの花の食感は、まるで想像とは違っていた。
やわらかくて適度な歯ごたえがあり、上品な葉物野菜を食べているみたいだ。
男は、そんな青羽を見て目を細める。
「千坂さんが、女性を連れてくるなんて意外でした」
「え?」
千坂主任の知り合いなのだろうか。
だとすれば、どこかで顔を見たことがあるというのも、あながち間違いではなさそうだ。
取引先の人間とも、ときどき顔を合わせることがある。
でも、こんなに端整な顔をした相手なら、絶対に忘れないと思うのだが……
すると席に戻ってきた千坂が、「仁科さん、こちらにいらしたのですか」と、男に向かって深々と頭を下げた。
やはり千坂の知り合いだったらしい。
千坂は別の席を用意してもらうよう、ホールスタッフを呼ぼうとしたが、仁科はそれを制し、千坂と青羽のあいだにあった空席に座った。
「今日は突然お呼びだてして、申し訳ありません」
頭を下げられたほうの男は、「いえいえ、とんでもない」と、上品だが親しみやすい笑顔で答えた。
「先日提案した件ですが、考えていただけましたか?」
「そうですね……まだ検討中です」
ビジネスの話?
それに、千坂が彼を呼んだって。
どういう状況なのかわからなかったが、なんだか自分がひどく場違いな気がした。