プラス1℃の恋人
【2】熱帯夜の残業命令
部屋を抜け出し、慎重にあたりを見回しながら廊下に出る。
扉には、『LOCKER ROOM』と書かれた銀色のプレートが貼り付けられていた。
通路の壁には、フロアの案内図がある。
『20F・クラフトビール・マーケティング・ジャパン』
そこには、青羽が勤めている会社の名前が書かれていた。
やっぱりうちの会社のフロアだったか。
それにしても、いったいいまは、何時なんだろう。
服がないのだから、スマートフォンももちろんない。
窓の外に視線を向けると、暗い空を背景に、高層ビルの明かりが眩しく輝いていた。
外はまだ暑いんだろうな。
都会では、日が落ちても暑さが続く。
昼のあいだ太陽に照らされたコンクリートが、夜になって空気中に熱を放つ、ヒートアイランド現象が起きるのだ。
女子更衣室に飛び込んだ青羽は、パウダールームの戸棚に忍ばせておいた自分の化粧ポーチから、ロッカーの鍵を取り出した。
受付の桃子からは「防犯上まずいんじゃないの?」と言われていたが、貴重品は手荷物としてオフィスに持って行くし、こういう場面ではとても助かる。
青羽は自分のロッカーから着替え一式を取り出した。
まずは水に浸したハンドタオルでベタついた体をきれいに拭く。
濡れた体に空気が触れ、ひんやりとして生き返る。
パウダールームの鏡には、真っ赤に茹だったタコみたいな顔が映っていた。
――ひっどい顔!
目の周りは黒っぽく落ち窪み、唇がカサカサに荒れていた。
汗で濡れた髪が変な方向にうねり、寝ぐせのようになっている。
すっかり疲れ果てた顔には女子力のかけらもなかった。
青羽はスツールに腰掛け、はぁっとため息をもらす。
そして、鏡に映った自分の冴えない顔を眺めながら、今日一日の出来事を思い返した。
扉には、『LOCKER ROOM』と書かれた銀色のプレートが貼り付けられていた。
通路の壁には、フロアの案内図がある。
『20F・クラフトビール・マーケティング・ジャパン』
そこには、青羽が勤めている会社の名前が書かれていた。
やっぱりうちの会社のフロアだったか。
それにしても、いったいいまは、何時なんだろう。
服がないのだから、スマートフォンももちろんない。
窓の外に視線を向けると、暗い空を背景に、高層ビルの明かりが眩しく輝いていた。
外はまだ暑いんだろうな。
都会では、日が落ちても暑さが続く。
昼のあいだ太陽に照らされたコンクリートが、夜になって空気中に熱を放つ、ヒートアイランド現象が起きるのだ。
女子更衣室に飛び込んだ青羽は、パウダールームの戸棚に忍ばせておいた自分の化粧ポーチから、ロッカーの鍵を取り出した。
受付の桃子からは「防犯上まずいんじゃないの?」と言われていたが、貴重品は手荷物としてオフィスに持って行くし、こういう場面ではとても助かる。
青羽は自分のロッカーから着替え一式を取り出した。
まずは水に浸したハンドタオルでベタついた体をきれいに拭く。
濡れた体に空気が触れ、ひんやりとして生き返る。
パウダールームの鏡には、真っ赤に茹だったタコみたいな顔が映っていた。
――ひっどい顔!
目の周りは黒っぽく落ち窪み、唇がカサカサに荒れていた。
汗で濡れた髪が変な方向にうねり、寝ぐせのようになっている。
すっかり疲れ果てた顔には女子力のかけらもなかった。
青羽はスツールに腰掛け、はぁっとため息をもらす。
そして、鏡に映った自分の冴えない顔を眺めながら、今日一日の出来事を思い返した。