プラス1℃の恋人
「35のオッサンが、10も年下の女に振り回されるなんて情けないと思ったんだ。自分が、ストーカーをしていたあの男と重なった。けれど俺はあいつとは違う。おまえも、須田青羽という別の人間だ」

 そんな当たり前のことに、いまごろ気づいたというのか。

 青羽は千坂を睨んでみる。
 千坂は姿勢をピンと正した。

「でも私、主任から答えをもらってない。それってずるくないですか?」

 すると千坂は、もう一度、今度は青羽の両手を優しく握った。

「俺は須田青羽に惚れてます。こんな男でよかったら、付き合ってもらえないでしょうか」


 青羽はその言葉をずっと待っていた。
 誰かの影と重ねるのではなく、ちゃんと目の前の青羽を見てほしかった。

 なあんだ。千坂は、ちゃんと自分自身で呪いを解くカギを見つけることができていたんじゃないか。

 青羽は立ち上がる。
 そしてテーブルの上で伸びあがり、かわいくて愛しい上司の唇にキスをした。

「もう少しで、魔法の効力が切れるとこでしたよ」

「まじか。それなら早く言ってくれ」

「1年近くも待ってあげたんですよ?」

「だよな。あー、めちゃくちゃ緊張した。見ろよこの汗」

 千坂の額には大玉の汗がいくつも浮かんでいた。
 その様子を見て、青羽はくすくす笑う。

 もう一度、今度はお互いに引き寄せられるように唇を重ねる。

 ふたりにかけられた呪いが、ようやく解けた瞬間だった。
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