プラス1℃の恋人
 一年前と違うのは、レストランでの食事のあとにバーへは行かず、ホテルの部屋に直行したということだった。


 青羽はベッドの上で千坂に馬乗りになり、ゆっくりネクタイを外す。

 このネクタイで憎い上司の首を絞めてやりたいと思ったこともあるが、絞めるよりも緩めるほうがワクワクする。

 シルクのネクタイをするりとはずし、ベッドサイドに落とす。
 ワイシャツの下は、いつものカーキ色のタンクトップだ。

 シャツのボタンをひとつずつ外していくと、途中で我慢できなくなった千坂が、キャミソール姿の青羽の胸に触れる。

「1年我慢してきたのに、これ以上じらされるのは御免だ」

 まだ全部脱がせていないのに、あっという間に体勢を逆転された。

 千坂は青羽を組み敷くと、ゆっくり唇を近づける。
 ひんやりとした体と同様、ひんやりと吸い付くような唇。

 青羽は目をつぶり、その気持ちのよいキスを堪能する。

 お互いに競うように服を脱がせ合い、ベッドのなかに潜り込んだ。


 暑いのが苦手な青羽だが、千坂が与えてくれる熱は、むしろ快感だった。

 青羽のなかに入る瞬間だけ、いつもは冷たい千坂の体が熱く燃える。

 その熱が心地よくて、もっともっと熱くなりたいと願うのだ。

「青羽……好きだ」

 何度も千坂は青羽の名前を呼んだ。

 熱っぽく潤んだ瞳に映っているのは、間違いなく自分の姿だ。
 誰かの代わりじゃなく、ちゃんと自分自身が愛されてるのだと実感できた。

 あの夜とは違い、青羽は幸せで満たされていた。

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