強制両想い彼氏
皐月くんが私に体重をかけてきた、まさにその時だった。
ピピピピピピ……と、無機質な機械音が突然鳴り響いた。
皐月くんは私を体を弄る手を一旦止め、忌ま忌ましそうに溜め息をつく。
音の発信源は、皐月くんのポケットの中に入っている携帯電話。
この音はたしか電話の着信音。
「皐月く……電話、鳴ってる……」
「……いい気にすんな。いいからお前はこっちに集中しろ」
気にするなと言われても、けたたましく鳴り続ける着信音は嫌でも気になる。
「皐月くん……電話、鳴り止まないね……」
「……」
「ねえっ……もしかして何か急用とかじゃないのかな!?出た方が……!」
「ああもううるせえなあ!いいところだっつーのに一体誰……」
私を押さえつけたまま、皐月くんはポケットから携帯を取り出した。
少し気になってチラッと目だけで画面を盗み見たら、黒いディスプレイには白い文字で“永瀬”と表示されていた。
「本当にこいつは……どこまで俺の邪魔をすれば気が済むんだ……」
そんな皐月くんの小さな囁きは、私の耳には届かなかった。
「……帰ろう」
私の腕を強く掴んでいた手を緩め、私から体を離すと、皐月くんは乱れた制服を直しながら立ち上がった。
「え……皐月くん……?」
「ん?」
「あの……」
「何?あぁ、もしかしてちゃんと最後までして欲しかった?」
「違うっ!」
真っ赤になって否定した私を見て、皐月くんはくつくつ小さく笑うと、はだけた私の制服を優しく直してくれた。
「ごめん、今日はしない」
なんか萎えちゃったんだよね、そう言って皐月くんは残念そうに薄く笑ったけど、その意味がよく分からなくて、私は一応黙って頷いた。
「暗くなっちゃったな。家まで送るよ」
私の手を引いて歩き出した皐月くんは、もういつもの皐月くんに戻っていて。
さっきまでの皐月くんは一体誰だったんだろうって疑問に思ってしまうくらい別人のようだった。
それでも、繋いだ手から伝わってくるぞわぞわする感覚は、たしかにさっきまで皐月くんに襲われたことを物語っている。
「皐月くん」
私の前を歩く彼の背中に小さく呼びかけてみたけれど、私の声は届かなかった。