強制両想い彼氏
ここまでで大丈夫だって何度も言ったのに、結局永瀬くんは家の近くまで送ってくれた。
辺りはもうすっかり暗くなっている。
「じゃ、また明日な」 永瀬くんはそう言って笑うと、私の肩をトン、と叩いた。
「うん、また明日!」 そう笑い返すと、永瀬くんは眉を下げて安心したように長い息を吐いた。
「やっぱりお前は笑ってる方がいいよ」
「え?」
「今日なんか学校でおかしかっただろ、お前」
「そんなこと……ないけど……」
口ごもっていると、永瀬くんに両手でほっぺを潰された。
タコのような顔になった私を見て、永瀬くんはけたけた笑った。
「はは、変な顔」
「ひょ……ひょっとやめへ……」
しばらく顔で遊ばれて、ようやく手を離してくれたかと思ったら、永瀬くんの顔がゆっくり近付いてきて、思わずビク、と硬直する。
「そうやって笑ってろ。……お前が笑ってないと、俺まで調子狂うんだよ」
キスできそうな距離で不意にそう囁かれれば、心臓はバクバクと音を立てて暴れ出す。
今日の永瀬くんは、なんかいつもと少しだけ違う。
いつもはただのクラスメイトなのに、なんで今日はこんなに……こんなにドキドキするんだろう……。
「じゃあな」
永瀬くんはパッと私から体を離すと、小さく笑った。
「あ、うん。送ってくれてありがとうございました」
「いいえどーいたしまして。あ、それ大事にしろよムール貝監督」
「ムール貝男爵!!!!!!」
永瀬くんは「家着いたらラインする」と言って、2人で歩いてきた道を引き返していった。
だから言ったのに。
家の方向真逆なんだから、送らなくていいってあれほど言ったのに。
ここから永瀬くんの家まで、歩いたら多分40分はかかるのに。
もう遅いのに、明日も学校あるのに、男の子だって夜道は危ないのに……。
でも、すごく嬉しかった。