強制両想い彼氏
「電話も出ないしラインも返ってこないし……お前に何かあったんじゃないかって……俺、心配で……心配で……」
「皐月くん……」
「あと5分電話くるの遅かったら探しに行ってたっつーの……」
電話の向こうで、皐月くんがぐったりしているのが分かる。
きっとすごく心配してくれてたんだ。
「皐月くんごめんなさい、これからはちゃんとこまめに連絡するから……」
「うん、そうして。じゃなきゃ俺死ぬ」
「やだ」
「ならちゃんとラインくらいすぐ返して」
「うん、約束する」
私の返事を聞いた皐月くんは、小さく息を吐くと、それからいつもの優しい声で「今日楽しかった?」と尋ねてきた。
「うん!すっごく楽しかった!」 そう答えて、今日のカラオケで起きた面白かった話をしたら、皐月くんはうん、うん、と優しく相槌を打って聞いてくれた。
「楽しそうだな」
「うん!めちゃくちゃ笑ったよ!あ、でもみんな皐月くん来ないの残念がってたから、次は一緒に行こうね!永瀬くんの尾崎豊の物真似が死ぬほどウザいんだけどめちゃくちゃ似てるから皐月くんにも見て欲しかったなあ」
「……永瀬はいいや」
「なんで!めちゃくちゃ似てるんだよ!ウザうまっていうのかな尾崎なんだけど尾崎じゃないみたいな!全然卒業できない全然バイク盗めない全然ベッドきしまないみたいな!超ウッザいんだから!見せたいよあれ!」
「ん……見なくていいよ」
皐月くんの声が急に暗くなる。
「……あいつは別に見なくても、もうウザいから」
ボソ、と呟かれたその一言に、無意識に背筋にゾク、と悪寒が走った。
今の、どういう意味なんだろう……。
なんだか無性に怖くなって黙り込んだら、電話の向こうからくつくつと小さな笑い声が聞こえてきた。
「何黙ってんの。深い意味はないよ」
皐月くんは優しい声に戻ってたけど、なぜか私の震えは止まらなかった。
「ん?大丈夫?やっぱり疲れてるのかな。明日も学校あるから、今日は早めに寝ろよ」
「うん……」
「じゃ、おやすみ。また明日」
「おやすみなさい」
電話を切っても、なぜか震えは止まらなくて。
私は微かに震える手で、携帯を机に置いた。
その時、背後でカツン、と音がした。
振り返ると、そこにはスタンドに掛けた鞄から外れてしまったのか、今日永瀬くんに取ってもらったキーホルダーが落ちていた。
それを拾って、このまま鞄につけないでおこうかとも思ったけど、外したことに気付いた時の永瀬くんの顔を想像したら、やっぱり鞄につけてしまった。
はあ、とため息をついて、ボフッとベッドに沈み込む。
「皐月くん……永瀬くん……」
色々考えたいことはあるのに、やっぱり疲れていたのか、ベッドに倒れた瞬間どっと睡魔に襲われた。
「ねむ……」
結局その日、私はそのまま深い眠りに落ちた。