強制両想い彼氏
どうしよう……早く、言い訳……
ドクン、ドクンと壊れそうなほど弾む心臓が痛い。
言い訳は考えれば考えるほど思いつかない。
でも正直に会うのが怖かったなんて言えない。
どうしようもできずに固まっていたら、皐月くんは呆れたように笑って私の顔を覗き込んだ。
「……昨日永瀬に何かされた?」
そのあまりに冷たい声色に、思わず体が強張る。
「何もされてない」
「本当?お前が俺を避ける理由なんて、そのくらいしか見当たらないけど」
皐月くんはゆっくり私から体を離すと、何かに気付いたのか目を丸くした。
「これ何?」
皐月くんの視線の先には、私の鞄についているキーホルダー。
昨日はひとつだったのに、今朝はふたつになっている。
皐月が“これ”と言ったのは、もちろん新しい方のことだった。
「これどうしたの?昨日はなかった」
「あ、ええと、これは……その……昨日取ったの……UFOキャッチャーで」
「誰が?」
「え、あ、自分で……」
最近嘘をついてばかりで、胸が苦しい。
罪悪感で押しつぶされそう。
「ふーん。色違い可愛いな。ねぇ、この新しいの俺にちょうだい」
皐月くんはあからさまに明るい笑顔でキーホルダーを指差した。
あげたいけど、さすがに永瀬くんにもらったものをあげるわけにはいかない。
「え、と……これはこうペアで持たないと効果が発揮されないから……!」
「効果って?」
「んと、えと、ムール貝男爵を色違いのペアで持ってるといいことが起きるっていうおまじないがあって……」
これも真っ赤な嘘。
でも皐月くんは信じたのか、「残念だな」と呟いて、キーホルダーから手を離した。