強制両想い彼氏
それからずっと学校に着くまで何か会話はしていたけど、上の空で話した内容は全然覚えていない。
皐月くんは怒っているのかいないのか、いつもと同じ優しいまま。
私が電車の時間をずらそうとしたことなんて、まるで無かったことのように普通に接してくる。
それが逆に怖かった。
「あ、おはよ」
下駄箱で靴を履き替えていると、偶然にも永瀬くんとばったり遭遇した。
永瀬くんはいつも通り笑顔で明るく声をかけてくれたけど、私の表情は引きつった。
いつもは嬉しいその明るい挨拶も、今日は……いや、皐月くんがいる今ここでは見たくなかった。
皐月くんと永瀬くんと3人になりたくない。
そんな私の願いも虚しく、靴を履き替えた皐月くんが、私たちの元へ近付いてきた。
「お、皐月もおはよ!」
「ああ、おはよ」
笑顔を交わし合う2人に一瞬安心したものの、私の鞄のキーホルダーに手を伸ばした永瀬くんにすぐにまた心臓を掴まれた。
バクバクと鼓動が早まる。
「あ、これちゃんとつけてくれてんだな」
永瀬くんのその一言に、皐月くんの表情が凍りつく。
「永瀬、それどういう意味?」
「ん?何お前こいつから聞いてないの?昨日カラオケ終わったの夜遅かったから、俺こいつのこと家の近くまで送ってやったんだよ。その途中でこいつがゲーセンのUFOキャッチャーやりたそうに見てたからさ、取ってやったの。いやー全然可愛くないのにな、このキャラクター。趣味悪すぎると思わねえ?なあ皐月……皐月?」
永瀬くんの話は、途中から聞こえていないみたいだった。
皐月くんが、今まで見たことのないくらい恐ろしい表情で、私を黙って見下ろしている。