強制両想い彼氏
「ねえ……永瀬くんは脚、大丈夫なの?」
私の質問に、永瀬くんはぴた、と動きを止めた。
それからしばらく黙り込んだ後、眉を下げて力無く笑った。
「全治3ヶ月だってさ」
3ヶ月は長い。
長いけど、治ることが分かって思わずほっと胸を撫で下ろした。
よかった、そう思ったのも束の間。
「ただ、サッカーはもう一生出来ないらしい」
その一言に、全身の血の気が引いた。
「骨はくっつくから普通に歩けるようにはなるみたいなんだけど、麻痺が残るらしくて、今まで通り走ったりすることは難しいって言われた」
永瀬くんはとすん、と自分の席に座ると、包帯に巻かれた自分の脚を眺めた。
「サッカー……死ぬまでやりたかったな」
永瀬くんは俯いていたから表情は見えなかったけど、私には泣いているように見えた。
私のせいだ。
私が永瀬くんと仲良くなかったら、こんなことにはならなかった。
私がいなければ、永瀬くんはずっとずっとサッカーが出来た。
私が、永瀬くんからサッカーを奪ったんだ。
「永瀬くん……ごめんね……」
私が泣いていることに気付いた永瀬くんは、脚をかばいながらゆっくり立ち上がると、少し遠慮がちに私の体を抱き締めてくれた。
皐月くんより少しがっしりしてる腕、皐月くんより少し熱い体温。
皐月くんにバレたらきっと大変なことになる、そう頭では分かっているのに、私の腕は自然と永瀬くんの背中に回されていた。
「……入院中、皐月が見舞いに来た」
「!」
「まあ見舞いなんてもんじゃなかったけどな」
永瀬くんは私を抱き締める腕に少しだけ力を込めると、しばらくそのまま黙っていた。
肩が少し震えている。
「何か、言われたの?」
私が恐る恐る尋ねると、永瀬くんはしばらく答えに詰まったあと、諦めたように口を開いた。
「これ以上俺がお前に手出したら、俺と同じようにお前のことを傷付ける、脚の骨折るだけじゃ済まない、って。お前のこと傷付けたくなかったら、今後一切お前に関わるなって言われた」
「なに、それ……」
「ずりーよな、皐月。俺の体ならどんだけ傷付けられたって構いやしねーけど、お前を傷付けるって言われたら……何も出来ねーだろ……」
永瀬くんは少し体を離すと、震える唇でそっと囁くように呟く。
「ごめん、でも俺……やっぱりお前を諦めたくない」
真っ直ぐな瞳に、胸の奥を掴まれる。
何も言えなくて、でも目を逸らすことも出来なくて、唇を結んで黙っていたら、永瀬くんが再び私の体を優しく抱き寄せた。
「皐月と別れろ」
「でも」
「どうせ脅されてるんだろ。大丈夫だよ、俺ちゃんと守ってやるから。もう脚折られるへまなんてしねーよ」
「……だめ、なの。皐月くんと離れたら、どうなるか……」
「このまま皐月の側にいる方が危ないと思うけど?」
何も答えられず黙っている私を見て、永瀬くんはゆっくり抱き締めていた腕を解いた。
「俺はお前を皐月の側に置いておきたくない」
永瀬くんは鞄を肩にかけると、松葉杖に手を掛けた。
「考えといて」 それだけ言うと、永瀬くんは教室から静かに出て行った。