強制両想い彼氏
どうしよう……。
私は、皐月くんが好き。
でも今、永瀬くんと久しぶりに話して、もっと一緒にいたいと思ってしまった。
永瀬くんに一生を台無しにする怪我をさせて、その上、入院中にさらに追い討ちをかけるような酷い言葉を言った皐月くんを、許せないと、思ってしまった。
皐月くんに、もう会いたくないと……思ってしまった。
机に手をついて、一度深く深呼吸をした。
その時だった。
ガシャン!!!と廊下から凄まじい音が聞こえて、私は慌てて教室の扉を開けた。
廊下には誰もいない。
音は、階段の方から聞こえた気がする。
嫌な予感がした。
とりあえず、音がした方に行って見ようと歩き出したけれど、すぐに足を止めた。
階段の方から、ひたり、ひたりと、皐月くんがこちらに向かって歩いてきていたから。
「遅くなってごめん」
皐月くんは薄く微笑みながら近づいてくる。
皐月くんとの距離が詰まる度、胸騒ぎが激しくなっていくのを感じる。
「皐月、くん……今、階段の方で、大きい音……して……」
私の声は聞こえているはずなのに、皐月くんはまるで聞こえていないかのように無視をして、私の教室の扉を開けた。
「ずっと教室で待ってたの?」
「え?ううん、さっきまで図書室にいたけど……」
「けど?」
「えと……10分くらいは、教室にいた」
皐月くんは小さく笑うと、そのまま私の目を覗き込んで首をかしげた。
「10分も教室で永瀬と2人っきりでいて、会話はしなかった?」
皐月くんのその一言で、心臓がばくんと跳ねた。
「え……?」
「今そこの階段とこで永瀬に会ったからさ」
「っ!じゃ、じゃあ!あの階段から聞こえた大きい音なんだったの!?まさか永瀬くんを……!」
言い終わる前に、皐月くんに強く肩を掴まれて、そのまま壁に乱暴に強く押し付けられた。
手できつく口を塞がれる。
皐月くんの目が怒りに染まっていて、体が激しく震え始めた。
「俺が質問してんだろ。答えろ」
「……っ」
「永瀬と会話はしたのか?」
怖くて怖くて、思わず首を横に振った。
皐月くんの手が、口から離される。
「してない……!話してない……!」
私のその言葉を聞いた皐月くんは、心底呆れたと言わんばかりに大きなため息を漏らした。
そして、鞄から何かを取り出すと、それを私に向けた。
黒い、機械。
トランシーバーのような形をしている。
何か分からず黙っていると、皐月くんはその機械のボタンを押した。
そして次の瞬間、その機械から流れてきたのは、私と永瀬くんの声。
さっきの教室での会話だった。
それが盗聴器だと理解するのに、時間はかからなかった。