強制両想い彼氏
「見ろよ」
階段の踊り場から、下を見下ろして目を疑った。
永瀬くんが倒れている。
倒れている永瀬くんの横には、赤黒い血の海。
急いで駆け寄ろうとしたら、皐月くんにぐっと後ろから首に腕を回されて、身動きが取れなくなった。
「皐月くん!!!離してッ!!!」
「……あいつが悪いんだよ。さっき通りすがりにさぁ……俺に「あいつは渡さない」とか言ったんだぜ……?もともと永瀬のものじゃないのに……なに勘違いしてんのかなーって。ムカついたから、後ろから軽く押しちゃった」
「……ッ!!!」
「結構高いとこから落ちたしなー……松葉杖じゃ受け身も取れないし、そりゃああなるよな。ほんといい気味」
「う……」
「俺はちゃんと警告したんだよ。お前に手を出したらもう脚じゃ済まないし……それに……」
「お前のことも傷付ける、って」 耳元でボソッと囁かれたその声は、あまりに狂気に満ちていて。
逃げなきゃ、と心臓が今までにないほど早鐘を打った。
「それでもあいつはお前に手を出そうとした……つまり、お前を傷付けてくれって……そういう意味だよな」
皐月くんはくる、と私の体を回して自分の方に向かせると、怯える私の顔をのぞき込んで、寂しそうに微笑んだ。
「ごめんな。でも大丈夫……」
消えそうな声で呟かれたその言葉の意味を考える時間も与えられず、トン、と軽く肩を押された。
「死なない程度に、するから……」
階段ぎりぎりに立たされていた私の体は、突然押されて簡単にバランスを崩す。
ぐら、と体が揺れて、視界から皐月くんが消える。
天井が見えた。
あ、と思った次の瞬間には体にありえないほどの激痛が走って、視界が白くなったり黒くなったり、世界が滅茶苦茶になった。
そこからの記憶は、ない。