この恋あきらめます

「……つかさ」


道の反対側を歩く彼の姿。
安堵で緩んだ体が、次の瞬間すぐに硬直した。

彼の向こうには彼女がいたのだ。
そう、芹沢麻子が。

その時、はっきりと私は感じた。
自分の心が砕ける音を。
見ないようにしてきた心が、落ちたグラスのようになるのを。

砕けた心は雫になって、頬を絶え間なく伝った。


「ははっ。そっか……なーんだ」


スマホですぐに司の番号を呼び出した。
コールの音がひどく長く感じる。

目の前に居るのに、すごくすごく遠くにいるみたいに。


「あっ。気づいた」


視線の先には、立ち止まった二人。
司が、耳元へ電話を当てるのがやけに遅く見えた。


『──夏帆?何かよう?』

「司……」

『何?忙しいんだけど』


忙しいんだ……。私との約束を破って、芹沢さんといる事がそんなに大切なんだね?


「ごめん。ちょっと、聞きたいことがあって」


精一杯、声が震えるのをおさえて喋る。
その代わり、前がぼやけて司が見えなくなる。

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