*好きと言えない俺様王子*
「え?」

 またもや手首を拘束され、早足で連れて行かれる。

 けれど、あの生暖かな気持ち悪い手じゃなくって、温もりを感じさせる手だった。

「あ、あの」

「いいからついてこい。あいつが動けない内に」

 そう言われてハッとした。

 さっきの人が、頭を抱えてうずくまっている。

「おい、待てお前!」

 彼が立ち上がり、私たちを追いかける。

「ちっ……早く逃げんぞ。厄介なことになる」

「あ、あ、うん」

 私は状況が飲み込めないまま、彼についていった。


「なんとか撒いたか……」

 何分か走って、プールの方に私達は逃げた。

「大丈夫か」

「あ、うん!ありがとう!」

 私の手から、黒瀬君の手が離れていった。

「気をつけろよ。それじゃ」


 颯爽と歩く黒瀬君の後ろ姿を、あの時の私は追いかけられなかった。

 そしていつしか、黒瀬君を目で追うようになっていて……

 そしていつしか、黒瀬君を好きになっていった。

 これが、私の黒瀬君を好きになった理由だ。
< 19 / 71 >

この作品をシェア

pagetop