七瀬さんは天使なペテン師
あの頃の日々
三年前…
俺がまだ小学校六年の頃だった。
同じクラスに好きな人がいた。
それが立花 華恋(たちばな かれん)。
入学してすぐ俺は彼女に一目惚れをした。
小柄で笑顔がかわいくて、フワフワのわたがしみたいな雰囲気の女の子だった。いつも、女子のグループの中でも妹みたいにかわいがられていてその姿が微笑ましかった。
でも、好きな人ほど話しかける勇気なんてなくて、見ているだけで精一杯だった。
そんなある日だった…
「痛っ…」
小学校の放課後、俺は宿題を忘れて残されて。一人で帰っているとき、目の前で電柱に激突して、転ぶ女の子がいた。
どんな歩き方したら激突するんだ!?とは思いつつも
「大丈夫?」
後ろから声かけると、目の前で起き上がったのが華恋だった。
「恥ずかしいところ見られちゃった…。大丈夫だよ!」
にっこりと笑ってこっちを大きな目で見つめてくるとドキドキした。
「なんで何にないところで転んだの?」
「ほら見て!」
彼女がまっすぐと真上を指差す。
虹だ…。
七色の虹が青い空にまっすぐと伸びていた。
「あんまり、綺麗だから見とれちゃってたの」
と、はにかむ華恋は、本当にかわいらしくて
また、空を見上げる彼女の横顔にしばらく俺は見とれていた。
それから、しばらくして俺の転校が決まった。
クラスのやつらのことは好きだったし、
なによりも、華恋と別れたくなかった。
けど、まだ小学生だった俺には告白する勇気も遠距離恋愛が成立確率も皆無だった。
だけど、今でもハッキリ覚えている。
俺が引っ越す日、その時仲のよかった何人かが見送りに来てくれた。
そいつから、手紙とかお別れの品とかいろいろ受け取ったあと、
引っ越しの車に乗るギリギリになって、
華恋が現れた。
「みんなに、住所聞いて…。それでお別れに…。」
うつむきがちに、俺の前までくると、
「あのね、私もっと瞬くんとお話ししたかったんだ…。
それで、お友だちになりたかったの。
だから、またいつか会ったらたくさん私とお話ししてくれる?」
恥ずかしそうに彼女は言った。
ずっと好きだった華恋にそう言ってもらえたことがなによりも、嬉しかった。
好きだってことも、嬉しいってこと伝えたいことが溢れたはずなのに、
俺もなんだか、照れ臭くて恥ずかしくって、
口に出せたのは、
「うん…。」
の、一言だけ。
それから、約三年の間
華恋と再会することはなかったけれど、
ずっと、忘れられなかった。
あの時、もっと何か言えていれば…。
もっと、前から勇気をだして仲良くしていれば…。
なんて、ずっと後悔しては華恋のことを思い出していた。
そう、
華恋は俺の甘酸っぱい初恋の相手だ…。