愛し君に花の名を捧ぐ
第二章 宣言
 こうして苦い茶を飲んでいてもらちが明かない。
 リーリュアは直接苑輝に理由を訊ねに行こうと立ち上がり、扉に手をかけた。が、押しても引いても開かない。引き戸というわけでもなさそうだ。

「もしかして、閉じ込められているの?」

「そんなバカな。おーい、開けてくれ!」

 キールがドンドンと力任せに扉を叩く。

「なにかご用でしょうか」

 ほどなくして、蝶番が微かに軋んだ音を立てながら扉は開かれる。姿を見せたのは、痩せぎすの見るからに気難しそうな女官だった。

「苑輝様にお会いしたいの。どちらにいらっしゃるのか、教えてくださらない?」

 無邪気に訊ねたリーリュアに、女官は器用に片方だけ眉を上げてから頭を下げる。

「大変申し訳ございませんが、主はただいま執務中でございます。目通りは叶わぬかと」

「ではいつお仕事は終わられるのかしら? それまで待つわ」

「あいにく、本日中は難しいと存じ上げます」

 取り付く島もない返答に、次第にリーリュアの苛立ちが募っていく。

「でしたら、いつなら大丈夫なのです!?」

 思わず声を荒らげても、面のような表情は露ほども動かない。

 強行突破をするしかないのだろうか。リーリュアは、扉が開いたままになっている彼女の背後を盗み見る。その視線を移動させキールに瞬きで合図を送ると、彼は「仕方がないな」というふうに肩をすくめ、頷いて了承を示した。

「ごめんなさいっ!」

「悪いな、おばさん」

 正面に立ち塞がる女官の脇を左右に分かれてすり抜ける。幸い大人がふたり並んで通っても余裕があるくらい両開きの扉は大きく開かれており、控えているはずの衛士は脇に除け、すっかり油断していた。

 数段ある階を飛ぶようにして庭に降り立つ。当然リーリュアには皇帝の執務室がある方角などわからないから、とりあえず謁見をした蒼世殿を目指すことにして駆けだした。
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