愛し君に花の名を捧ぐ
 あまりに褒めちぎられるものだから居たたまれなくなり、表で待っているはずのキールたちを呼び込んだ。だが、彼らもリーリュアの姿を見て言葉を失ってしまう。

『ねえ、やっぱり変なのよ。いつもの服に着替えたいわ』

 侍女の袖を引いて情けない声で懇願した。

「こりゃあ、驚いた。あの衣装は華月《かげつ》以上に似合う者はいないと思っていたが、なかなかどうして」

 剛燕は顎ヒゲをしごきつつ、しきりに相づちを打ち続ける。リーリュアはいまだ反応を示さないキールに心細げな視線を送るが、彼はふいと横を向いてしまった。

『……そんなの、うちの姫様じゃないみたいだ』

『キール!』

 大人げない態度に、侍女たちから非難の声が上がる。

『姫様、本当によくお似合いですわ。あんまりお綺麗なので、キールったらきっと照れているんです』

 口々から先ほど以上の賛辞を浴びせかけられ、とうとうリーリュアは耳の裏まで真っ赤に染まってしまっていた。

「ふん。まだまだガキだな、チビ」

 キールにだけ聞こえるように剛燕が意地悪く囁く。

「なにをっ!」

「さて。お気に召さなくても、もう着替えている時間などありませんから、そのままで参りましょうや」

 キールの反論を無視して、剛燕は皇帝の待つ宮殿へと歩き始めてしまった。
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