愛し君に花の名を捧ぐ
 リーリュアは、慌ててひらひらと揺れる裙の裾を捌きながら後に続く。
 輿を用意すると言われたのだが、この機会に自由に歩かせてもらえない皇宮内を見ておこうと断っていた。

 道すがら、文官武官、宮女や下働きの使用人、御用聞きに訪れた商人らしき人、たくさんの人と行き合ったが、皆が皆、葆の衣装を身につけた異国人へ物珍しげな視線を送ってくる。

 なかにはひそひそと耳打ちしあう者たちもいて、自分の足で来たことを少し後悔し始めていた。

『顔を上げて、リーリュア様』

『キール?』

 半歩下がった後ろについてくるキールが、前方に鋭い視線を向けたまま声をかける。

『あなたは、オレたちの自慢の姫です。何ひとつ恥じるようなことはありません。いまの姫様は、この皇宮にいるだれよりも綺麗です』

『……ありがとう』

 リーリュアは俯きかけていた顔を上げた。国を代表してここにいる自分の、一挙手一投足がアザロフの評価に繋がるのだ。

 翆緑の瞳で前を見据え、金歩揺に負けない輝きを放つ髪と、羽のように軽い薄紫の披帛をなびかせ颯爽と回廊を進むリーリュアの姿を、皆が足を止め礼をして見送る。
 そこには先ほどとは違う畏敬の念さえ感じられ、先導している剛燕は密かにほくそ笑む。

「やるじゃないか、チビ」

 満足げに呟いて振り返り、周囲の建物より一段と警護の厚い殿舎を示した。

「あちらの宮に苑輝様がおられます」
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