愛し君に花の名を捧ぐ
苑輝は重い口を再び開けた。
「主人と長男を失っても、年若い次男の将来を望みに細々と家を守っていた母親のところへ、宮女として皇宮に勤める娘が百合の侍女に選ばれたことを聞きつけた、夫の以前の同僚だという者が現れたそうだ。次男の出仕と引き換えに……」
「わたくしを、殺せ……と?」
苑輝は曖昧に顔を歪めて先を続ける。
「真犯人は工部次官の崔勧。すでに身柄を拘束して、さらに詳しい取り調べを続けさせている」
「崔……」
覚えのある名が出たことに、リーリュアは愕然とした。桃の掛け軸の贈り主である。
崔次官は、鉱山のある庚州の刺史から袖の下を受け取り、人足の手配の優遇、産出量の改ざん、産出品横流しの斡旋など様々な便宜を図っていた。
今回アザロフと採掘の提携がまとまれば、発見された鉱脈の有用性によっては葆国内各所に存在する鉱山の体制に、大幅な改革が行われる可能性がある。
それにより、己の不正が発覚することを恐れた崔勧は、王女との縁組が決裂することで、条約をも不締結にさせようと目論んだのだという。
「初めの指示は百合が葆から出ていけばいい、という程度だった。だがそれも失敗し、立后の日取りまで決まってしまった。向こうも焦ったのだろう。礼拝中に宗廟で倒れたのなら、それこそ龍の怒りだとこじつけられる」
あれだけ細い針だ。言われなければ、掌にできた小さな傷跡など、そう簡単にはみつけられない。それにまさか、皇帝の目の前で犯行が行われたとは思いもしない。落雷騒ぎと霊峰という場所を利用するつもりだったのだ。
「主人と長男を失っても、年若い次男の将来を望みに細々と家を守っていた母親のところへ、宮女として皇宮に勤める娘が百合の侍女に選ばれたことを聞きつけた、夫の以前の同僚だという者が現れたそうだ。次男の出仕と引き換えに……」
「わたくしを、殺せ……と?」
苑輝は曖昧に顔を歪めて先を続ける。
「真犯人は工部次官の崔勧。すでに身柄を拘束して、さらに詳しい取り調べを続けさせている」
「崔……」
覚えのある名が出たことに、リーリュアは愕然とした。桃の掛け軸の贈り主である。
崔次官は、鉱山のある庚州の刺史から袖の下を受け取り、人足の手配の優遇、産出量の改ざん、産出品横流しの斡旋など様々な便宜を図っていた。
今回アザロフと採掘の提携がまとまれば、発見された鉱脈の有用性によっては葆国内各所に存在する鉱山の体制に、大幅な改革が行われる可能性がある。
それにより、己の不正が発覚することを恐れた崔勧は、王女との縁組が決裂することで、条約をも不締結にさせようと目論んだのだという。
「初めの指示は百合が葆から出ていけばいい、という程度だった。だがそれも失敗し、立后の日取りまで決まってしまった。向こうも焦ったのだろう。礼拝中に宗廟で倒れたのなら、それこそ龍の怒りだとこじつけられる」
あれだけ細い針だ。言われなければ、掌にできた小さな傷跡など、そう簡単にはみつけられない。それにまさか、皇帝の目の前で犯行が行われたとは思いもしない。落雷騒ぎと霊峰という場所を利用するつもりだったのだ。