あじさい少女
また今日も、あじさいを見ようとしたその時
「朝食です」
愛は長い髪をゆらして、はっと振り返った。
いつもの女の声じゃなかったからだった。
なんだか少し低い、少年のやけに落ち着いた声
「朝食、置いておきますよ。きちんと食べてください」
愛は固まってしまった。
ここのところ、二ヶ月半
人に話し掛けられたことがなかったため、慣れていなかった。
「聞こえていますか、愛さん」
冷や汗をかく愛。
自分の名前が"愛"だったことを、ふと思い出した。
それと同時に母親の記憶が混ざって、どうにもできなく、混乱した。
「朝食、食べてくださいね」
カタン、と音を立てて
パンとサラダ、それにオレンジジュースの入ったトレーが、窓から部屋へと運ばれた。
でもその時
愛は、あることに気付いた。
トレーの中に、小さなあじさいの花が置いてあったのだ。