あじさい少女



また今日も、あじさいを見ようとしたその時






「朝食です」



愛は長い髪をゆらして、はっと振り返った。




いつもの女の声じゃなかったからだった。



なんだか少し低い、少年のやけに落ち着いた声




「朝食、置いておきますよ。きちんと食べてください」




愛は固まってしまった。



ここのところ、二ヶ月半


人に話し掛けられたことがなかったため、慣れていなかった。





「聞こえていますか、愛さん」




冷や汗をかく愛。



自分の名前が"愛"だったことを、ふと思い出した。



それと同時に母親の記憶が混ざって、どうにもできなく、混乱した。







「朝食、食べてくださいね」




カタン、と音を立てて


パンとサラダ、それにオレンジジュースの入ったトレーが、窓から部屋へと運ばれた。






でもその時



愛は、あることに気付いた。





トレーの中に、小さなあじさいの花が置いてあったのだ。









< 7 / 24 >

この作品をシェア

pagetop