闇に紛れてキスをしよう







……マ、マジですか……。




私の視界に現れた男性2人……。




ひとりは、「B.C. square TOKYO」の2Fにあるカフェ「Aroma of Beans」の店長兼オーナーを務めていて、いつもお世話になっている、麻生真人さん。


明るめの茶色いサラサラの髪と、笑うと瞳が全部黒目になっちゃう所が可愛いとウチの事務所でも評判で、誰にでも優しくて、誰にでも好意的な所も人気を後押ししている。


スラッとした長身でモデル体型なイケメン、その上人気カフェのオーナーなものだから、麻生さん目当てでお店に通ってる人も大勢いるっていうウワサ。




もうひとりは、「B.C. square TOKYO」の55Fにある会員制VIPラウンジ「Blue Flame」の看板バーテンダー、町田穣治さん。


私達みたいな庶民なんかは54FのBarに行くのが月一のご褒美レベルなんだけど……55Fと54Fは同じスタッフが勤務しているらしく、穣治さんが54Fに居る時は『当たりだ!』ってみんながウキウキしてる。


こちらもスラッとしてるんだけど、個人的には穣治さんの腰のラインが美しいと思ってて……意志の強そうな眉と瞳、何より女子並みな下睫毛が羨まし過ぎる、濃い目のイケメンだ。




「三上ちゃん、ツイてないねぇ~」




そう言って、首をコテンと傾げてる麻生さんは、いつもの笑顔なのに瞳の奥が全然笑ってなくて……むしろ恐怖すら感じるようで。




「あ、三上さんってこの人なんだ……俺、見た事あるわ」




穣治さんは、Barに出ている時には見た事が無い、太い黒縁フレームの眼鏡を掛けていて、くっと背中を屈ませながら私の顔を覗き込んだ。




「むぐっ……んぐっ……」

「この猿ぐつわ、リーダーの趣味?」

「それ以外無いでしょ……修さんは普通中の普通の人だし、一真はそうでも俺らには見せないでしょ」




2人はけらけら笑いながら、私が異常な状態になっているのがさも当たり前のように普通に会話を続けていて。


チラッと私に視線を向けた麻生さんは、普段見せている人懐っこい笑顔をまるっきり封印してニヤリと口角を上げていて、穣治さんはもごもご動く私を観察しては楽しそうに微笑んでいて。




「(……やっばい!やっばいよ!!)」




そうして勝手に視界が滲んできた私の頭をホワホワと撫でたのは、いつもの笑顔を浮かべた、田中さんじゃなくなった岡部さんだった。






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