闇に紛れてキスをしよう







「……なんで、こんな事に……」




何だか分からない彼らの秘密を垣間見てしまった私が、そのまま開放して貰え……るハズも無く。


私は今、彼らに見つかってしまった際に運び込まれた52Fの一室で、新しい生活を始めている……。




「ちっとさ、とりあえず今晩はココで寝てね」




連れて来られた時のように……まるで米俵の如く岡部さんの肩に担がれた私が放り込まれたのは、私が普段生活しているワンルームよりもかなりの広さがある部屋で、客間にでも使われていたのか……普通の生活が送れるだけの家具が一式揃えられていた。


その部屋の窓近くに置かれたセミダブルのベッドに、ポイッとまるでモノのように放り投げられて、猿ぐつわや手を拘束していた布を外しては貰えたものの……唖然としている私に岡部さんはヒラヒラと手を振って部屋を出て行った。


ベッドの上でおねえさん座りをしたまま、どの位の時間ボーっとしていたのか……ハッとして部屋の扉に駆け寄って開けようと試みたものの、そこにはロックが掛けられていて。


ドアノブの辺りに鍵が見当たらない事に気付いた時に頭を過ったのは、彼らがエレベーターで使っていたカードキー。




がっくりと項垂れたままベッドに戻って、脱力しながら腰を掛ければ、力の抜けた体は自然とベッドに転がって、私はそのまま夢の中……。








目が覚めた時には窓から明るい光が差し込んでいて、働いていない頭のまま窓の外を見れば、その高さに一気に目が覚めた。




室内を見渡してみれば、昨日は目に入らなかったデスクには、事務所に置きっ放しにしていた筈の私の鞄が置かれていて、その横に置かれたメタリックのスチール棚には、ハンガーに掛けられた私のジャケットが下がっていて。


その横には、スーツやオフィスカジュアルの洋服が数着下げられていて……近寄って見てみれば、それは間違いなく私の持ち物で……。




「……はぁっ!?」




思わず出てしまった大きい声に呼び寄せられるように開いた扉の向こうから、岡部さんがひょっこり顔を出していた。




「……おはよぉ」

「え、な、なんで……」

「荷物は今日全部運んでおくから安心して~」

「……は?」

「あ、それと、今日はお仕事お休みね?これからどうするかちゃんと決めるから~ってさ~」

「……は?」




ひょっこり出ていた顔は、同じようにひょっこり扉の向こうに消えて行って……それにつられる様に私も扉の向こうに一歩踏み出した。






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