闇に紛れてキスをしよう







「おはよ」




部屋から廊下に出て、うろ覚えの記憶を頼りにリビングに辿り着いてみれば、カウンターキッチンの向こうには、朝から爽やかな笑顔を浮かべた麻生さんの姿があって、まるで毎朝2Fのカフェで見かける姿そのもの。




「……おはようございます」

「今日はパンと目玉焼きとベーコン、サラダ位なんだけど、三上ちゃんも食べる?」

「……頂いて良いんですか?」


「オッケーオッケー!座って待ってて……って、コレ、持ってって貰って良い?」




そのままカウンターの前に置かれている椅子に腰掛ければ、にっこり笑った麻生さんが差し出してくれたのはオレンジジュースとお水の入った2つのグラス。


麻生さんがクイッと顎で指した方向に視線を向ければ、それはリビングに置かれたソファーの方で、そこには3人の姿が見えた。




それぞれ全員寝起きなのか……。


坂井さんはグレーのスウェットの上下を着て、後ろ髪をぴょこんと跳ねさせたまま優雅に足を組んで新聞を読みながら、ローテーブルに置かれたコーヒーに手を伸ばしていて。


西野先生は、どれだけ着込んだんだろうか……年季の入ったよれよれのTシャツにハーフパンツ姿でソファの上にゴロリと転がり、携帯ゲームを驚きのスピードで操作中。


岡部さんに至っては、床のラグの上で子供みたいに丸くなって転がっていて……なんなら半目のまま涎を垂らしそうな勢いで夢の中に引きずり込まれそうになっている。




渡された2つのグラスを手に持って、彼らの方に近寄っていけば、携帯ゲームからちらりと視線を外した西野先生と目が合って、表情を変えないままの彼は左手を差し出してオレンジジュースを指差した。




「ソレ、修ちゃんに……もういっこワタシの」

「……おはようございます」

「あぁ……オハヨウゴザイマス」




お水の入ったグラスを西野先生の前に置けば、私から挨拶した事が意外だったのか……少し上目遣いで私を見た後、いつもの先生の笑顔で挨拶を返された。




「案外動揺してないんだな」

「おはようございます……これでもしてますよ」

「あぁ、おはよう……そうなんだ、損な子だね」




新聞から視線を上げた坂井さんは、昨夜みたいな警戒心満載な瞳は……朝というのもあってか……柔らかくなっていて、返された挨拶に付いていた笑顔には不覚にも胸が鳴ってしまった。


その間も……岡部さんは半目で口も開いていた。






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