闇に紛れてキスをしよう







「……わぁ!初めて出ましたよココ!…良いんですか?私がこんな場所に来ちゃっても…」

「そん代わり、誰にも内緒だかんな?叱られんの、おれなんだから」




そこは、「B.C. square TOKYO」で働く人なら誰でも一度位、どんな風なんだろ…なんて考えた事があるような場所。


全てのフロアを超えた、ヘリポート。


管理人室の横、壁だと思っていた場所が扉になっていて、その先にヘリポート直通のエレベーターがあったのは、正直なところ驚きだった。


そこはドラマで見るような屋上になっていて、ヘリが離着陸する場所からは見えにくい場所に赤い缶の灰皿がこっそり置かれていて、屋根になってる場所の下に置いてある辺り田中さんは確信犯だろう。




「内緒にします!こんな最高な場所、わざわざ知らない人に教えたくない!」

「んははっ!それもそうか…教えた甲斐もあるってもんだな」




危なくない範囲を子供のように走り回る私を見ながら、癒しの田中さんはふにゃふにゃ笑っていて、どこか嬉しそうにも見えて、そんな田中さんを見て私も嬉しくなって。




それからは、時間が合えば一緒にヘリポートで小休憩したり、時間が合わない時は私に専用エレベーターのカードキーをこっそり貸してくれたりして、秘密の喫煙所生活を満喫していた。


だから、田中さんと時間が合わなくて、1人ヘリポートの隅で煙をゆらゆらさせていても、ちょっとだけ寂しい気持ちになったりもしたのだけれど。




「この景色を独り占めって、なかなかの贅沢だよね…だって絶対ラウンジよりも綺麗だもん」




予定外に遅くなってしまった残業中の小休憩、事務所には先生どころか同僚の姿も無く、ひとり寂しく残業しながらもどこか満たされた気持ちになっていた。


ふわ…と舞上がっていく白煙。
微かに煌く星と、それよりも明るい街の灯り。
誰も居ない広いスペースを独り占めした上に、そこから見えるすべての景色も独り占め。


ごろりとヘリポートに転がりながら、派遣された先が今の事務所で良かったな…なんて噛みしめて、咥えてた煙草を灰皿に向けてぽーんと投げれば上手く入る…ハズも無く。


よっこいしょ…と体を起こして腰を上げて、灰皿から外れて下に落ちてしまったオレンジ色の火を灯したままの煙草を指先で抓めば。


バラバラバラ…と聞き慣れないプロペラの騒音とあまり体感した事のない風が頭上から降ってきて、慌てて灰皿の向こうにある壁に姿を隠したんだ。






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