闇に紛れてキスをしよう







バラバラバラ…とプロペラが大きい音を立ててヘリポートに着陸した機体は、夜の闇に溶け込むような黒に染め上げられていて、小さい窓からは数人の影が見えた。


ヘリが着陸するのをこの距離で見るのも初めてだし、何ならこの場所が使われてるっていう事にも驚きだったし、実際ビルのヘリポートに着陸するものなんだな…なんて事を気楽に考えていて。


もしかしたら癒しの田中さんは、ここが使われているのを知っていて、ヘリが離着陸しない時に一緒に使わせてくれてたのかな…と、彼の優しさを少しばかり嬉しく感じていた時。


プロペラの音が少しずつ小さくなって、エンジンの音も緩やかになっていく中、ガチャ…とヘリのドアが開いて搭乗していた人達がカツッ…コツッ…と靴音を鳴らした。




「今回の獲物は楽勝だったねー」

「俺の計画なんだから当然」

「それにしても楽勝過ぎ…折角コッチは予告状も出してやったっていうのに、もうちょっと真剣に捉えて欲しいよね」




よ、予告状……!?


ヘリからエレベーターへ向かう人達が楽しそうに話している内容が聞こえてきて、私の胸をドクンと鳴らした。


彼らの話している内容が若干物騒だったのは勿論…その中に、聞き覚えのある声が混じっていたからだ。




「……ん、ちょい待ち」




カツ…と靴音が止まって、彼らの会話もピタリと止まったところで私はハッとした。


さっき消して吸い殻になっていると思っていた手元の煙草は、未だオレンジ色の火を灯して煙が風下の彼らに向かって流れていたんだ。




コツ…コツ…と静かに靴音が私の方に向かってきて、その音と共に私も奥の暗い方に体を少しずつずらしていったけれど。


壁に這うように体を添わせて、じりじりと後ずさってみても、進む先にはもう壁しかないのに。


それでも近付いてくる靴音はどんどんと大きくなってきて。


遂には後ろに下がれなくなった私の上にフッと影が差して、近付いてきていた靴音はピタリと止まった。




「……やっぱり、三上ちゃんじゃん」




残念ながら逆光で、彼の表情は私の方からは全く見る事が出来なくて、震える指先から未だ火を灯したままの、吸い殻になりかけな煙草がぽとりと落ちた。






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