そろそろ恋する準備を(短編集)
愛しているのかもしれない
【愛しているのかもしれない】
(朝比奈先輩からのセクハラ生活 その1「人生は平凡のあつまり」)
平凡に生きたい、と。わたしは常日頃思っている。
可もなく不可もなく、三十九点までが赤点だとしたら、必要最低限の勉強をして四十点が取れるような。部活だって、全国大会を目指すような熱血ではなく、ただ楽しくやっていたい。まあ、わたしはずっと帰宅部なんだけれど。
そんな風に目立つこともなく、かと言って地味でもなく。ごくごく普通に、平凡に生きたいのだ。
言うと、隣に寝転んでいた朝比奈先輩は「あはは」と笑った。
「なんで笑うんですか」
「だってはるちゃん、授業サボってる時点で平凡とは言えないもん。不良だよ不良」
「それは朝比奈先輩がわたしのペンケースを人質に取ったからです」
「だってチョコチップメロンパンで釣ろうと思ったら、華麗に無視するんだもん」
「よくチョコチップメロンパンひとつで釣れると思いましたね」
「だってはるちゃん好物でしょ?」
「はい、ごちそうさまです、おいしかったです」
四時限目。場所は屋上。どこから入手したのか、朝比奈先輩は屋上の鍵を持っていて、すっかりわたしたちの溜まり場となっていた。
今日も良い天気、絶好のお昼寝日和だった。
「もう夏だねえ」
「夏ですねえ」
「帰り、アイスでも食べてく?」
「先輩のおごりですか?」
「あはー、じゃあ胸触らせてくれたらおごってあげる」
「それなら自分の分は自分で払います」
「遠慮しなくていいのに」
「わたしの胸はアイスと同等ですか?」
笑いながら朝比奈先輩は、横に寝転がるわたしの脇腹を撫でてくる。
その手をぱちんと叩いてやると、嘘っぽく口を尖らせながら起き上がって「暴力反対」と抗議する。理不尽にも程がある。こちらは「セクハラ反対」と抗議したい。
「あ。はるちゃん、パンツ見えてる」
「げ」
「白、か」
慌てて飛び起きてスカートを押さえて「セクハラ反対!」と声を大にして抗議した。まったく、油断も隙もない。
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