そろそろ恋する準備を(短編集)
恋とはなんて面倒なのだろう
【恋とはなんて面倒なのだろう】
バレー部の矢本くんに絶賛片想い中の友だちが「クッキーを焼いたから渡したい」と言うから、体育館に付き合った。
練習後、ミーティングと掃除が終わるのを待って、矢本くんを呼び止める。
恥ずかしそうにわたしの背後に隠れていた友だちが「あの、これ、良かったら……」と消え入りそうな声で言って、可愛らしい花の絵が描いてある透明の袋を差し出した。
矢本くんはにっこり笑ってそれを受け取る。
その様子を見ていた部員たちが「矢本先輩いーなー!」と近寄って来るから、友だちはすかさず「いっぱい焼いたので良かったら皆さんで」と、さらに袋を取り出した。
これには遠巻きに見ていたみんなも寄って来て、わいわい言いながら早速クッキーを食べ始める。
「うまい!」
「クッキー焼けるなんてすごいっす!」
「売り物みたいだね」
「ほんとうまいよ、ありがとうね」
みんなに褒められ、友だちは嬉しそうにえへへと笑った。
みんなには悪いけど、友だちは矢本くんに「うまい!」と言ってもらえたことが一番嬉しいだろう。
一歩下がってその様子を眺めていたら、口をもぐもぐさせながら光平くんがやって来た。
バレー部の関係者でも何でもないわたしが気軽に体育館に来られるのは、幼馴染みでバレー部主将の瀬峰光平くんのおかげでもあった。
「お菓子作れるなんて女子力高いな、おまえの友だち」
「そうだね」
「モテるだろ、あの子」
「まあ、可愛いし良い子だよ」
「おまえとは大違いだな」
どうやら嫌味を言いに近寄って来たらしい。
「どういう意味よ」
「おまえと違って、可愛いし良い子だし料理上手ってこと」
かちん。
かちんときた。
隣の光平くんを睨み上げると、にやにやとわたしを見下ろしていた。
彼には挑発癖がある。昔からいつも、かちんとくるようなことばかり言って、怒らせて。わたしがぎゃんぎゃん喚くのを見て、楽しんでいるのかもしれない。
バレー部の矢本くんに絶賛片想い中の友だちが「クッキーを焼いたから渡したい」と言うから、体育館に付き合った。
練習後、ミーティングと掃除が終わるのを待って、矢本くんを呼び止める。
恥ずかしそうにわたしの背後に隠れていた友だちが「あの、これ、良かったら……」と消え入りそうな声で言って、可愛らしい花の絵が描いてある透明の袋を差し出した。
矢本くんはにっこり笑ってそれを受け取る。
その様子を見ていた部員たちが「矢本先輩いーなー!」と近寄って来るから、友だちはすかさず「いっぱい焼いたので良かったら皆さんで」と、さらに袋を取り出した。
これには遠巻きに見ていたみんなも寄って来て、わいわい言いながら早速クッキーを食べ始める。
「うまい!」
「クッキー焼けるなんてすごいっす!」
「売り物みたいだね」
「ほんとうまいよ、ありがとうね」
みんなに褒められ、友だちは嬉しそうにえへへと笑った。
みんなには悪いけど、友だちは矢本くんに「うまい!」と言ってもらえたことが一番嬉しいだろう。
一歩下がってその様子を眺めていたら、口をもぐもぐさせながら光平くんがやって来た。
バレー部の関係者でも何でもないわたしが気軽に体育館に来られるのは、幼馴染みでバレー部主将の瀬峰光平くんのおかげでもあった。
「お菓子作れるなんて女子力高いな、おまえの友だち」
「そうだね」
「モテるだろ、あの子」
「まあ、可愛いし良い子だよ」
「おまえとは大違いだな」
どうやら嫌味を言いに近寄って来たらしい。
「どういう意味よ」
「おまえと違って、可愛いし良い子だし料理上手ってこと」
かちん。
かちんときた。
隣の光平くんを睨み上げると、にやにやとわたしを見下ろしていた。
彼には挑発癖がある。昔からいつも、かちんとくるようなことばかり言って、怒らせて。わたしがぎゃんぎゃん喚くのを見て、楽しんでいるのかもしれない。