そろそろ恋する準備を(短編集)
狂気の日々
【狂気の日々】
あと、五分。
あと五分で、放課後。
ああ、忌々しいショートホームルーム。早く終われ、早く終われ……。
ちっとも進まない時計の針を睨みつけ、「そのとき」を待つ。
あと十秒。
五、四、三、二、一……来た!
「失礼しまーす、宇佐美先生ー」
いつも通りの時間に、いつも通りの笑顔でやって来たのは、うちの学校の生徒――七海千夏。今日も七海さんのクラスでは、あっという間のショートホームルームをして、他のクラスよりも早く解散したらしい。そして七海さんはいつも通り真っ直ぐ、僕がいる保健室にやって来た。
「見て見てー、お昼休みに抜け出して買って来ました! 冷やして食べましょう」
がさ、とコンビニ袋を鳴らして、七海さんが笑う。中にはプリンが入っていた。
「学校抜け出しちゃだめですよ」
「学校の目の前がコンビニなんですもん。あんな立地じゃあ、買いに行けって言っているようなものです」
「まあ、確かに……」
「冷蔵庫入れますねー」
「じゃあ僕はお茶煎れます。それともコーヒーや紅茶のほうがいいですかね?」
「ううん、お茶でいいですよ。お茶大好き」
なかなか渋い嗜好の女子高生は、にっこり笑って「先生ありがとう」と言った。
去年の冬から、七海さんはいつも保健室に入り浸る。ただしそれは、放課後限定のこと。朝から放課後までの間は、余程体調が悪くない限りはやって来ない。
体調が悪い生徒や怪我をした生徒がやってくる保健室に、雑談目的の自分が来たら迷惑になるから、と。昼休みに学校を抜け出すくせに、そういう線引きはちゃんとしているらしい。
そんな七海さんが、僕は……。
あと、五分。
あと五分で、放課後。
ああ、忌々しいショートホームルーム。早く終われ、早く終われ……。
ちっとも進まない時計の針を睨みつけ、「そのとき」を待つ。
あと十秒。
五、四、三、二、一……来た!
「失礼しまーす、宇佐美先生ー」
いつも通りの時間に、いつも通りの笑顔でやって来たのは、うちの学校の生徒――七海千夏。今日も七海さんのクラスでは、あっという間のショートホームルームをして、他のクラスよりも早く解散したらしい。そして七海さんはいつも通り真っ直ぐ、僕がいる保健室にやって来た。
「見て見てー、お昼休みに抜け出して買って来ました! 冷やして食べましょう」
がさ、とコンビニ袋を鳴らして、七海さんが笑う。中にはプリンが入っていた。
「学校抜け出しちゃだめですよ」
「学校の目の前がコンビニなんですもん。あんな立地じゃあ、買いに行けって言っているようなものです」
「まあ、確かに……」
「冷蔵庫入れますねー」
「じゃあ僕はお茶煎れます。それともコーヒーや紅茶のほうがいいですかね?」
「ううん、お茶でいいですよ。お茶大好き」
なかなか渋い嗜好の女子高生は、にっこり笑って「先生ありがとう」と言った。
去年の冬から、七海さんはいつも保健室に入り浸る。ただしそれは、放課後限定のこと。朝から放課後までの間は、余程体調が悪くない限りはやって来ない。
体調が悪い生徒や怪我をした生徒がやってくる保健室に、雑談目的の自分が来たら迷惑になるから、と。昼休みに学校を抜け出すくせに、そういう線引きはちゃんとしているらしい。
そんな七海さんが、僕は……。