偽りの先生、幾千の涙


そこまで考えて、私は我に返った。


私は何を考えているのだろう。


確かに伊藤が来て悪い事ばかりではない。


メリットはあるが、だからと言ってあんな得体の知れない男が周りにいていいわけがない。


私は頭を振って考えを消す。


どうやら私は疲れているらしい。


不快な思いもしたし、思考力も低下しているし、今日は早めに寝よう。


明日また伊藤が近づいてきた時に、疲れていては伊藤の口車に乗ってしまうかもしれない。


私は家に帰ると、お風呂に入り、寝る支度をした。


晩ご飯は作るのも買いに行くのも面倒だから抜く事にした。


明日の朝ご飯を少し多めに食べれば問題ないだろう。


明日の持ち物の用意の一環で体操服を鞄に詰める途中に、鞄から紙切れが落ちたいった。


伊藤に貰った名刺だ。


無理するなといった伊藤の顔が思い出される。


本当にそう思っているかのような感じだったけど、今の私を無理させているのは伊藤だ。


それなのに、あの言葉を思い出すと少し気持ちが楽になる。


絶対に頼りたくない相手だし、信用も出来ない相手なのに、よく分からない。


やはり疲れているのだろう。


私は考えるのをやめて、ベッドに身を投じた。


電気を消した部屋からは真ん丸の月がよく見えた。




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