偽りの先生、幾千の涙
side by 先生
その日は会議があって、終わったのは下校時刻に迫ろうとしている頃だった。
もう少しやる事もあったが、何となく帰りたくなったから帰る事にした。
残業する教員の横を通って職員室を出て、部活終わりの生徒に何人か挨拶をして学校を出る。
校門の前には、お迎えの車が何台も停まっていた。
どれも高級車ばかりで、車のショーでも見ているようだった。
そのショーも横切って、俺はバス停に向かった。
最初はバイクで通勤していたが、急ぎの日以外は電車で行き来するようにしていた。
榎本果穂が電車やバスで来ているからだ。
勿論、俺の通勤時間と彼女の通学時間は異なる。
でも途中で寄り道していたり、用事があって早くに学校に来ているとしたら…そんな時に会えるかもしれない。
そんな美味しいチャンスを逃すわけにいかない。
そして今日、そんな努力が実ろうとしていた。
バス停の列の先頭に、背筋をピンと伸ばして立っている少女の姿があった。
鞄を両手で持ち、スマホを触らずに前を見ている。
絵になる光景だった。
でもあの日のように見惚れたりしない。
俺は考える。
話しかけるか、今日は遠くから通学の様子を窺うか…そうだな、今すぐに話しかけるのは止めよう。
途中からでいい。