偽りの先生、幾千の涙
俺は態とバスの後方の席に座ったり、電車でもギリギリ姿を確認出来る位置に立っていた。
幸いな事に、榎本果穂はまだ俺には気付いていないようだ。
電車を降りてから話しかけようか。
そう考えていた時、人の波に押されて榎本果穂との距離が縮まった。
俺が立っているのは、榎本果穂を斜め後ろから眺める事が出来るところだ。
前に何人か人がいるから距離は取れているものの、油断は出来ない。
そう思いながら、榎本果穂を見ている時だ。
窓ガラス越しに見える彼女の表情が変わった。
何かに耐えるような不自然な表情で、初めて見る顔だった。
榎本果穂の周りを注意深く観察すると、彼女の真後ろに立っている男の動きがこれまた不自然だった。
何が起こっているかはすぐに分かった。
と同時に、真後ろの男に対して、同じ男として許せない気持ちが沸き起こった。
それに…あんな顔をした榎本果穂を見ているのが不愉快に思えた。
自分のやっている事は棚に上げて、俺はどうするか考えた。
程なくして、次の駅からまた沢山の人が電車に押し寄せる。
俺はその流れに乗って、男の後ろに立った。
そこから動くつもりはない。