偽りの先生、幾千の涙
今に限っていうなら、榎本果穂はただの女の子だった。
人の嘘を見抜く眼差しも、警戒心も、高嶺の花のような凛とした姿勢も今はない。
何処にでもいる普通の女子高生だ。
逆に何故、いつもはあんな感じなんだろう。
俺の好みだけで言うと、こちらの方が随分と可愛らしいと思う。
…榎本家に復讐したい俺が言える事ではないが。
そもそも、榎本果穂の素は何処にあるのだろうか。
俺は初めて会った日を思い出す。
泣き出しそうな顔をしていた彼女は、本物の榎本果穂のはずだ。
個人面談で動揺していた時も、今も…気付けば弱っているところでしか拝めていない。
友達も家族も適当に付き合っているだけの彼女に、楽しい時はあるだろうか?
国木田花音は榎本果穂が途中から変わったと話しているが、何があったというのだ?
そういう観点で考えると、俺が思っている以上に榎本果穂の闇は深い。
母親を亡くした事だけが原因じゃないような気がしてならなかった。