偽りの先生、幾千の涙
断ったのは…俺の事を警戒しているのか、それとも学校の関係者に見られたくないからか、どちらかは分からないがそんなところだろう。
でも…どうしてそんな、何事もなかったかのように振舞えるのだろうか。
もしかしたら、彼女にとって先程の出来事は珍しい事ではないのかもしれない。
そうだとしたら、悲しい事だ。
「分かった。
これからは遅くまで学校に残らないで、さっさと帰るんだぞ。」
補講や授業が終わってすぐに帰れば、電車が混雑するような時間は避けられるはずだ。
「はい。
そうします。」
とても素直な返事が帰ってきたが、心から反省しているとは思えなかった。
榎本果穂の事だ、誰かに強く引き止められたら断らずに付き合ってしまうのだろう。
「皆に引き止められても、ちゃんと断れよ。
それか誰かの車で送ってもらえ。」
「はい。
もしもの時はそうします。」
またもや素直な言葉が聞こえてきたが、中身が伴っているとは思えない。
俺は少し呆れると共に、説教したい気持ちにもなってきた。
もう少し危機感を持てとか、女の子なのだからとか、言いたい事は泉のように溢れてくる。
だが榎本果穂が俺の説教を素直に聞くとは思えず、俺は全てのセンテンスを血管の中に流し込んで、代わりに鞄の中から名刺を探し、それを榎本果穂に渡した。
「ああ。
あと、これやる。
何かあったら連絡して。」