偽りの先生、幾千の涙


俺は助けたり、心配する立場の人間ではない。


利用するのが俺の務めなのだ。


分かっているのに、摩訶不思議な行動を取ってしまった。


榎本果穂は俺の行動を見て、どう思ったんだろう。


もし少しは警戒が解けたのならラッキーだ。


でもそれは結果に過ぎない。


助けて、一緒に歩いて、名刺を渡して…初めて見る表情ばかりで、色んな意味で驚いた。


そんな事を考えていると、電話が鳴った。


俺は全身で驚くと共に、すぐに相手を確認する。


海斗だ、榎本果穂ではない。


俺は電話に出た。


「もしもし?
どうした?」


「あ、もしもし?
兄さん?
実は今日、父さんが仕事で家に帰らないらしくてさ、電話とか出来ないわけ。
だから今日は代わりに俺に報告するって事になった。
っつーわけで、今から家に行ってもいい?」


「どうして報告するためにわざわざ家に来るんだよ。
今日は駄目だ、帰れ。
報告ならこの電話で済ます。」


「えー。
でも俺、マンションの前にいるんだけど、無理?
今日は話す事沢山あるんじゃない?」


「駄目っつてんだろ。
って、お前…」



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