偽りの先生、幾千の涙
もしかして俺を尾行していた?
いつから?少なくとも学校を出た時はいなかった。
まさか同じ電車に乗っていたのか?
「うん?
兄さん、どうしたの?
っつか兄さん、今家にいる?
まだ学校にいるとかじゃねえよな?
俺、このマンション入れないんだけど。」
聞かずとも答えが返ってきて、緊張が解ける。
「何でもねえよ。
あと家にはいるけど、絶対に入れてやらねえからな。
っつかさっさと家に帰れ。
お前が家に帰ったら報告してやる。」
俺は明日に2日分の報告をしたらいいが、今日聞けなかったら海斗が父さんに叱られるだけだ。
ここで帰らなければ、海斗が損をするだけだ。
「分かったよ。
家に帰ったら電話するから。」
ツーツーと電話が切れる音がすると、俺はスマホをベッドの上に放り投げる。
柔らかいマットの上に収まるそれを確認すると、俺は夕飯を作り始める。
今日は集中出来ないから、調理の簡単なもので済ませようと、冷蔵庫から食材を見繕う。
出来たものを胃の中に詰め込むと、俺はベッドの側面に背中を預け、先程中断した考え事を続ける。
海斗を家に入れなかったのは、考える時間が欲しかったからだ。
報告する内容を整理する時間も、このモヤモヤした感情を整理する時間も…でも全くもって時間が足りない。
ここから実家まで1時間はかかるが、海斗がすぐに電話してくると仮定して、あと30分程だろう。
俺は溜め息を吐いた。