偽りの先生、幾千の涙
そのまま取り巻きと花音ちゃんと一緒に校舎へ入る。
クラス替えの発表を確認し、周りの同級生が騒いでいるのを冷めた目で見る。
高校3年生なんて、希望進路と成績で結果はほぼ目に見えているのに、どうしてこんなにテンションが高いのだろうか。
「果穂ちゃん!
あたし、今年も果穂ちゃんと同じクラスだよ!
よろしくね。」
「花音ちゃん、同じクラス?
良かった。
私、花音ちゃんいないと淋しい。」
「あたしも!
大学も果穂ちゃんと同じとこら行けたらいいな。
頑張らなきゃ。
そう言えば果穂ちゃん、担任の伊藤先生って誰かな?
この学校、伊藤先生っていなかった気がする。」
「そう言えばそうね、誰かしら。」
1組の横に書かれている、伊藤貴久(イトウ タカヒサ)という名前に見覚えはない。
新しい人?でも新任で担任ってありえるかしら?
「果穂様、その方は中村先生の替わりだと思いますよ。
ご存じないですか?
中村先生、1週間程前に交通事故に遭われて生死をさ迷っておられるそうなんです。」
ゴシップ好きの取り巻きの1人が教えてくれた。
交通事故で生死をさ迷うって、お気の毒様。
「まあそうなの?
1週間前なら、他の先生の配属も決まった後ですもんね。
という事は…急遽雇われたって事かしら?」
それとも雇われる事は決まってたけど、急遽担任に昇格したとか?
何でもいいや、進路とか相談する気ないし、勉強は自分でやるから。
私はまた、取り巻き達とダラダラ歩きながら教室へ向かう。
行く先々で聞こえる自分の名前に愛想笑いしつつ、やっとの思いで教室に着くと、更に面倒だった。