偽りの先生、幾千の涙
「貴久君、どうしたの?」
「うん?
あー、ごめんごめん。
考え事してた。
そういえば花音ちゃん、さっきの続きだけど、貴久先生ってどんな人?
イケメン?」
「えっと、伊藤先生は…」
花音ちゃんから輝いた笑顔が消える。
花音ちゃんも兄さんが怪しいって思っているのか。
それとも…
「花音ちゃん、その伊藤先生を好きになっちゃったとか?」
「え!?
そんな事ないよ!
ないない!
絶対にない。」
今度は驚いて、大きな目を更に開きながら否定してくる。
兄さんに見せてやりたい顔だった。
「違うの?
勿体ぶるからてっきり片思いなんじゃねって思ったけど。」
「そんなんじゃないよ!
えっとね…なんかね…伊藤先生ってよく分からないの。」
花音ちゃんが水を一口飲む。
俺も水を飲んで、グラスをテーブルに置くと、花音ちゃんが意を決したように真っすぐにこちらを見る。
「あのね、伊藤先生ってよく分からない人なの。」
「…よく分からない人?
ミステリアスって事?」
爽やかイケメン先生を演じているって聞いていたが、路線を変更したという事だろうか?
だがそんな事は一言も聞いてない。
些細な事だから言わなかった可能性はあるが、もう少し話を聞いてみる必要がありそうだ。