偽りの先生、幾千の涙
俺からしたら大した事のない出来事だった。
でも花音ちゃんは顔を赤くして、小さな声で謝った。
転びかけた事が恥ずかしいのか、それともこの距離感が恥ずかしいのかは分からない。
でもこちらを向いてくれないから、顔を見て判断するわけにもいかない。
「大丈夫?」
「うん…ごめんね。」
「謝る必要ないよ。
怪我はしてない?」
「大丈夫…してないよ。」
俺はその言葉を聞くと、花音ちゃんの二の腕を放した。
「それなら良かった。
ここの階段、結構急だから気を付けて。」
俺は先に階段を下りた。
その後ろを花音ちゃんがゆっくりと歩く。
手摺を持って、とても慎重に。
下りると、目の前の道路を車が行き来していた。
「花音ちゃん、お迎えの車とか来る感じ?」
「ううん。
予備校には来ないの。
なんか家の車が来ると、変に目立っちゃうから、隣の駅まで電車で、そこから迎えに来てもらっている。」
変に目立つ車ってどんな高級車に乗っているのか知らねえけど、どうやらここでは花音ちゃんにについて調べられそうにないようだ。