偽りの先生、幾千の涙
こんな時間にピアノは弾けないし、寝るつもりだったから勉強する気にもならない。
気軽に電話出来る友達の連絡先の入っていないスマホを見ても、つまらないだけだ。
私は諦めて、ゲストルームに行った。
いつもは荷物置きにしているこの部屋は、微かに埃の臭いもして、綺麗とは言い難い。
今から掃除をするわけではないが、来る人が父親なだけに、全くもってやる気がしない。
父親が来るのは10日後だから、掃除は今週末にしておかないと間に合わない。
そんな事を考えていると、どんどん気分が滅入ってしまう。
やはり今日は無理矢理にでも寝ようか…そう思って、自室に戻った。
戻った瞬間、机の引き出しが気になった。
中を開けると、伊藤の名刺が入っていた。
私は思わず笑ってしまった。
頼れるわけではないが、ここにしか今は縋れる者がいないのだ。
親が厳しいと嘘を吐いて、学校中から渡される連絡先を登録しないでいた自分が恨めしく思えた。
だが、だからと言って伊藤に連絡するわけにもいかず、それだけでなく悔しさもあるから、名刺を机の奥に乱暴に突っ込む。
それからそっと引き出しを閉めると、私はベッドに潜った。
目を閉じて、違う事を無理に考えようとする。
そうだ、あのタブレット端末…教室には全然持ってきていない。
一体何処にあるのかしら?
そんな事を考えながら、私は何とか眠りに就いた。